
日本での生活やビジネスを始めるにあたって、もっとも気になるのが日本特有の礼儀作法・マナーではないでしょうか? 日本では礼儀や考え方、ビジネスにおけるマナーなど、ほかの国とはまるで違うマナーや礼儀作法がいくつも存在します。
これらの礼儀作法・マナーをまったく知らずに行動すると、問題になってしまうことも…。日本の必要最低限のマナーを身に付けておくことが、仕事での成功につながるでしょう。
本記事では、日本ならではの礼儀作法・マナーの基本や歴史、日本のビジネスシーンで覚えておきたいマナーの一覧についてご紹介します。
日本での生活・ビジネスに備えて、基本的なマナー・礼儀作法を覚えておきましょう。
日本の礼儀・マナーの基本
日本には礼儀とマナーを重んじる風土があり、以下の礼儀を幼少期から学びます。
● 初対面の相手には必ずあいさつをする
● 相手からの親切に対してお礼を伝える
● 相手の目を見ながらあいさつをする
日本のマナーは相手の気持ちを尊重するのが特徴です。相手を思いやって敬意を払う心や謙虚な心が重視され、自分と関わるすべての人・モノに対するまごころを表現します。
ここでは、日本ならではの礼儀・マナーの歴史と現代における変化を見ていきましょう。
1.日本の礼儀・マナーの歴史

日本の礼儀・マナーの誕生の歴史は、飛鳥・奈良時代に聖徳太子が編纂した「十七条の憲法」に明記された礼儀・マナーに関する文献に遡ります。ここで記された礼儀・マナーは、当時の貴族や官僚に対して“和”の大切さについて説いたものでした。
そこから時代が下っていくにつれて貴族・武家でそれぞれ礼儀・マナーとされる所作が生まれ、江戸時代以降には現代の日本にもつながる礼儀・マナーが体系化されてきました。
何気ない一つひとつの所作の中に、日本人が歩んできた歴史・文化が刻まれているのです。
2.現代日本における礼儀・マナー

日本における礼儀・マナーは、明治時代以前とそれ以降で一線を画しています。明治時代に開国した日本は諸外国との関わりの中で、西洋の文化を取り入れた文化へと変化しました。
例えば、江戸時代の街中で自分よりも身分が高い人と出会ったら、腰を折りながら両手を足の甲につけ、膝を曲げて、屈んだ状態で礼をする「途中の礼」をするのが一般的でした。
しかし、諸外国から異国人が多く入国してくる中で、外国人に対して途中の礼をしたときにひどくみっともなく見えてしまったという経緯から、途中の礼は廃止されました。
そして、明治時代以降は相手の位の高さに応じて立礼の角度を15度・30度・45度と調整するという、今の日本でも知られている礼儀・マナーの誕生へとつながったのです。
近代化プロセスの中で、日本人のマナーや考え方はその形を大きく変えてきたといえます。
3.日本と海外の礼儀・マナーの違い

日本ならではの礼儀・マナーには、以下のようなものが挙げられます。
● 公共交通機関の中では静かにする
● 話の途中で適度にあいづちを打つ
● 頻繁に謝罪の言葉を口にする
外国人の方が日本で生活して驚くのは街の静かさ、特に公共交通機関での静かさではないでしょうか? 東京や大阪などの大都市の電車や地下鉄では、大騒ぎしている方や大声で会話している方、電話している方は皆無で、イヤフォンなしで音楽を聞いている方もいません。
常に他人に配慮した、日本らしい礼儀・マナーを感じられる瞬間だといえます。
また、日本人は相手が発言している最中にあいづちを打つことが多いです。海外では相手の発言を聞いてからリアクションするのが一般的ですが、日本ではあいづちで常に反応を伝えます。
日本人は感謝だけでなく、謝罪の言葉もきちんと伝えます。真っ先に謝ることが一般的ではない文化圏の方からすると、日本人は謝罪しすぎだと考えてしまうかもしれません。
自分に非があったら潔く認めて謝るという、相手の心情に配慮した考え方だといえます。
日本のビジネスにおける礼儀・マナーの一覧
日本のビジネスシーンにおける礼儀・マナーの一覧表は以下のとおりです。
礼儀・マナー | 知っておくべきポイント |
1.あいさつとお辞儀の文化 | 基本的な日本式のあいさつとお辞儀について |
2.上座・下座のルールを守る | お店の席の位置によって序列がある |
3.時間前行動を徹底する | 10分前・15分前の行動を徹底する |
4.ビジネス上の身だしなみを心がける | 髪型やひげの有無、体臭・口臭のエチケット |
5.ボディランゲージ・ボディタッチはNG | 日本人は他人と気軽に触れ合う文化がない |
6.自信があることしか「できる」と言わない | 日本人はとりわけ自信があることでないと「できる」と言わない |
7.本音と建前の使い分けが求められる | 本音と表面的な反応を柔軟に使い分ける |
8.周囲の空気を読むことが重要 | 個人よりもチームでの意思決定が重要 |
9.相手やシチュエーションによってお辞儀の角度を変える | 相手や時と場合によってお辞儀の角度が違う |
10.名刺交換のルールを徹底する | 正しい渡し方と受け取り方がある |
11.電話とメールでの応対の型を覚える | 電話・メールでの応対方法がある |
ここからは、それぞれの礼儀・マナーの概要やポイントについてチェックしましょう。
1.あいさつとお辞儀の文化

日本には歴史的にあいさつとお辞儀の文化が根づいています。初対面の相手に対してはあいさつと自己紹介をして、名刺交換を行うのが特徴。名刺交換のルールは後ほど解説します。
また、相手の役職や親密度に基づいて、普段から以下のようにお辞儀を使い分けます。
● 会釈(15度)・・・会社の同僚とのあいさつや部屋への入室時に使うお辞儀
● 敬礼(30度)・・・会社の上司やクライアントに対して使うお辞儀
● 最敬礼(45度)・・・お詫びや感謝、改まったあいさつに使うお辞儀
このように、ビジネス上でお辞儀をする相手や意図によって、お辞儀の角度を変える必要があります。基本的に言葉を発してからお辞儀するのが礼儀・マナーです。その一方で、何か別の動作をしながらのお辞儀や、何度もお辞儀を繰り返すのはNGマナーとなっています。
不安であれば、身近な人間からフィードバックをもらって改善するとよいでしょう。
2.上座・下座のルールを守る


日本には上座・下座の礼儀・マナーがあります。ビジネス会議やクライアントとの会食の場で、出入り口からもっとも遠い席のことを「上座」、もっとも近い席のことを「下座」といいます。
立場や役職、年齢が上の方やクライアントには上座を案内するのがマナーです。上座から下座に近づくにつれて序列が下がります。立ち位置を考えて案内する席を考えましょう。
また、エレベーターでも上座・下座の考え方で立ち位置を調整する場合があります。タクシーの場合は、運転席の真後ろが上座で、助手席が下座という考え方です。
相手に不快感を与えないためにも、上座・下座の考え方は頭の中に入れておきましょう。
3.時間前行動を徹底する

日本の日常生活やビジネスシーンで共通する考え方として、時間前行動・時間厳守があります。業務開始時間が朝8:30の場合、8:15~8:20には職場にいることが望ましいとされているのです。業務時間だけでなく、ビジネス会議やアポイントでもこの考えが適用されます。
この点は、業務開始時間に間に合えばいいという日本以外の多くの国での文化とは大きく異なる点です。
ただし、日本における時間厳守の考え方は開始時間のみに適用されます。仕事や会議の遅れがあった場合は、予定時間を過ぎても引き続き業務を実施することも珍しくありません。
また、終業後の同僚や上司との飲み会や歓送迎会などに半ば強制的に参加しなければならないケースもあり、業務外でも職場のつながりがあるのが日本らしさだといえるでしょう。
4.ビジネス上の身だしなみを心がける

ビジネスにおいては、相手に不快感を与えない身だしなみを心がけることがマナーです。清涼感を意識した以下のような身だしなみが、相手に与える印象に大きく影響します。
【男性の場合】
● 清潔感のある髪型を心がける。寝癖やヘアカラーはNG
● 口ひげ・あごひげはきちんとそる
● スーツはグレーやネイビーなど暗めのものを選ぶ
● シャツは白が基本。首まわりや丈の長さを合わせる
【女性の場合】
● 目立ち過ぎないナチュラルメイクを心がける
● ロングヘアは髪が乱れないように束ねる
● スカート丈は立ったときに膝頭半分くらい、座ったときは膝上5cmくらい
このように性別によって、気を付けなければならないポイントは異なります。相手に悪い印象を与えないように、見た目や口臭・体臭のエチケットには特に注意を払いましょう。
5.ボディランゲージ・ボディタッチはNG

日本社会ではボディランゲージやボディタッチの文化がポピュラーではありません。例えば、欧米諸国では一般的なハグやキスなどはビジネスシーンではNGです。また、握手する文化もあまりないため、突然握手を求められると困惑してしまうこともあるでしょう。
また、身振り手振りの大きいボディランゲージやジェスチャーも基本的に使いません。動きの大きいボディランゲージは、相手に威圧的と捉えられてしまうリスクがあります。
大げさなボディランゲージや、距離感の近いボディタッチは避けるのが無難でしょう。
6.自信があることしか「できる」と言わない

日本社会では、ビジネスの場面に限らず、人が「〇〇ができます!」と宣言する機会は少ないです。日本人が「できる」というときは、よっぽど自分に自信があるときに限られます。
ビジネスにおいては「できる」と言ったことができなかった場合に、責任問題が生じるリスクがあります。そのため、100%の明言を避けるために「努力します」「善処します」「尽力します」「最善を尽くします」など、婉曲(えんきょく)表現をよく使うのです。
個人の主義主張が重視される文化からすると、まわりくどい表現を使うことに違和感を覚える方もいるでしょう。日本特有の文化として、婉曲表現を覚えて駆使する必要があります。
7.本音と建前の使い分けが求められる

日本には、本当の考えの「本音」と周りに見せる表面的な考えの「建前」が並立しています。というのも、日本文化では謙遜が美徳とされ、たとえ本音では自分の考えを表明したいと思っても、建前として謙遜する言動を見せるのが礼儀・マナーとされているからです。
その場の雰囲気が重視されるため、仕事場で自分の意に反する言動があったとしても、その場では和やかにやり過ごさなければならないこともあります。また、会議で提案を断るときは、場の雰囲気を壊さないために、「検討します」「もう一度考えます」と回答を避けることも。
本音と建前の文化的な風土を知って、ビジネスする中で身の振り方を考えてみましょう。
8.周囲の空気を読むことが重要

日本のビジネスシーンにおいては、職場や会議の場など、その場にいる人間の反応を見ながら、相手に対して不快感を与えないような言動を取ることが重要です。そうしないと、クライアントとの関係性が悪くなったり、ビジネスでの業績に響いてしまったりします。
「相手の気分を害さないだろうか」「話を邪魔しないだろうか」と考えながら、取るべき行動を考えます。例えば、同僚や上司、クライアントと相いれない場合に、自分の主張を通そうとして言い合ってしまっては、相手にマイナスの印象を持たれるリスクがあるでしょう。
相手の反応や雰囲気を見ながら、自分が取るべき言動の選択を検討することが大切です。
9.名刺交換のルールを徹底する

日本のビジネスシーンでは、初対面であいさつしてすぐに名刺を手渡すのがマナーです。名刺を渡す際・受け取り時に覚えておきたいルールは、以下のとおりとなっています。
【名刺を渡す際のマナー】
● 立ったまま名刺を手渡す
● テーブル越しに名刺を渡さない
● 相手が読みやすい向きで名刺を渡す
● 会社名・所属部署・名前を伝える
● 相手よりも低い位置で両手を使って差し出す
【名刺を受け取る際・受け取った後のマナー】
● 会社名や名前に指がかぶらないように両手で名刺を受け取る
● 受け取った名刺はポケットに入れないようにする
● 受け取った名刺は商談中もテーブルの上に並べておく
● 相手に見えるところで名刺にメモを書かないようにする
このように、いくつものルールがあるため、名刺交換の場に備えて覚えておきましょう。
10.電話とメールでの応対の型を覚える

日本の会社には、メール・電話に関わるテンプレートやマナーがあります。ビジネスメールに関しては、以下の情報を盛り込んだ上で、ポイントを押さえてメールを書きましょう。
● 相手の企業・役職名・担当者名
● 自分の企業・役職名・担当者名
● 要件がひと目で分かる要約タイトル
● タイトルと要件に沿った定型フレーズ
● メールの締めの言葉
メールの件名を見て内容がひと目で分かるようにして、一文一文を簡潔に書き、情報量が極端に多くなりそうなら、箇条書きも効果的に活用するようにするのがおすすめです。
電話に関しては、会社によって応対の仕方が異なりますが、以下のマナーは共通です。
● 電話をかける際は会社名と名前を名乗ってあいさつする
● 電話がかかってきたらベル3回以上は待たせない
● 重要な要件は復唱して相手に確認する
● 相手を待たせる場合は断りを入れる
● 相手が通話を終了してから電話を切る
電話では相手の顔が見えないので、より相手に配慮しながら対処する必要があります。電話をかける際は、自分が会社の代表者という意識・自覚を持って対応するようにしましょう。
まとめ:日本のマナーを押さえてビジネスに生かそう!

この記事では、日本の礼儀・マナーの基本やその歴史、現代日本における礼儀・マナー、日本と海外で異なる礼儀・マナー、覚えておきたいビジネスマナー一覧をご紹介しました。
日本には海外にはない独自の礼儀・マナーがあり、その根底には他者への配慮やその場の雰囲気を重んじる文化があります。自分の個人的な意見を主張してばかりでは、日本のクライアントとの関係性がうまく構築できないリスクもあります。
ビジネス上の名刺交換のマナーやメール・電話での応対の仕方なども必須知識です。
あいさつと感謝・謝罪はきちんと行い、常に時間前行動を意識しながら、チームとしての行動、その場を丸く収めるための立ち回りを考えて実践していくことが重要です。
最低限のビジネスマナーを身に付けて、日本でのビジネスを円滑に進めていきましょう。
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